建設工事の特徴
建設工事を発注する場合、その他の一般的な経費等の発注と異なり、特徴的な点があります。それは、工事の発注を行ってから対象の物件が完成して引渡しを受けるまでの期間が長期に及ぶ、という点です。大規模な建設プロジェクトになると、工期が数年に渡ることも珍しくありません。
そのため、工事代金の決済方法にも特徴があります。具体的には、前払金という形で契約時等のタイミングで一部の工事代金の支払が行われたり、工期の途中のタイミングで部分的に引渡しを受けた部分に相当する代金を決済することがあります。
このような前払金や工期の途中で支払った代金は、会計上「建設仮勘定」の科目を用いて固定資産に計上していきます。そして、対象物件の全部の引渡しを受けたときに、建設仮勘定から固定資産等の勘定科目へ振り替える処理を行います。
建設仮勘定についての基本的な会計処理は、こちらの記事で解説しています。
建設仮勘定に関する消費税の仕入税額控除のタイミング
消費税法において、建設仮勘定に関する消費税の仕入税額控除のタイミングは、以下のように「原則」と「容認」が規定されています。
原則 | 「物の引渡しや役務の提供があった日の課税期間において課税仕入れに対する税額の控除を行う」という原則に従い、設計料に係る役務の提供や資材の購入等の課税仕入れについては、その課税仕入れを行った日(※1)の属する課税期間において仕入税額控除を行う |
容認 | 物の引渡しや役務の提供または一部が完成したことにより引渡しを受けた部分をその都度課税仕入れとしないで、工事の目的物のすべての引渡しを受けた日の属する課税期間における課税仕入れとして処理することも認められます |
※1 課税仕入れを行った日・・・資産の譲受けや借受けをした日、または役務の提供を受けた日を指します。これらの日は原則として、所得税法または法人税法で所得金額の計算をするときの資産の取得の日または費用の計上時期と同じです。
建設工事等の物の引渡しを要するものであるときの「課税仕入れを行った日」とは、当該建設工事等の種類、性質、契約の内容等に応じ、その引渡しを受けた日として合理的であると認められる日であり、例えば以下のような日が考えられます。
- 作業が結了した日
- 検収が完了した日
- 使用収益できることとなった日
建設仮勘定として計上したタイミングで仕入税額控除できるわけではない
工期の途中で支払った工事代金は建設仮勘定に計上されていきますが、その計上を行ったタイミングで常に仕入税額控除ができるわけではない点には注意が必要です。つまり、帳簿上「建設仮勘定」として経理した日は、必ずしも消費税の課税仕入れの時期ではないということです。
前述した仕入税額控除の時期の「原則」に従うと、あくまでも仕入税額控除は「課税仕入れを行った日」に行われるべきものであり、その事実がないタイミングで行った建設仮勘定の計上は単なる経理上の処理にすぎないことになります。
そのため、資産の取得・譲受け等を伴わない単なる「前金」「着手金」「契約金」「中間金」などは、それを支払ったタイミングで仕入税額控除をすることはできません。
なお、工事請負契約においていわゆる部分引渡しの条項が定められており、その通り実際に部分的な引渡しを受けている状況で、その部分に関する対価が明確に区分されている場合には、支払ったタイミングで仕入税額控除ができる場合もあります。このようなケースでは、建設仮勘定として経理したタイミングと仕入税額控除のタイミングは一致することになります。なお、いわゆる「出来高払い」や「出来高検収」と言われる取引も、取引実態によってはこのケースに該当することもあると考えられます。
具体例
具体的な例で示すと以下のようになります。
当社は×1年に新工場の建設を決定し、総額11,000万円(税込)で建設業者と契約しました。なお、当社は過去から消費税の課税事業者です。また、仕入税額控除の時期に関する容認規定は採用しておらず、原則的方法により仕入税額控除を行うこととしています。消費税率は10%です。
【契約金額の内訳(税込)】
・設計業務 55万円(支払条件:業務完了時)
・工事代金 10,945万円(支払条件:着工時 1,045万円、完成時 9,900万円)
【時系列】
・×1年中に設計業務が完了し、着工
・×2年に新工場が完成し、引渡し完了
上記の例において、仕入税額控除の年度別の金額は以下のようになります。
年度 | 仕入税額控除の金額 |
×1年度 | ×1年度に建設業者に支払った代金は、設計業務55万円(税込)と着工時代金1,045万円(税込)の合計1,100万円(税込)。
いずれも建設仮勘定として計上しているものの、仕入税額控除の金額は、設計業務に関する部分の消費税5万円のみ(※2)。 |
×2年度 | ×2年度に支払った代金は、完成時代金9,900万円(税込)。
仕入税額控除の金額は、前年度に支払った着工時代金1,045万円(税込)と、今年度に支払った完成時代金9,900万円(税込)の合計10,945万円(税込)に関する消費税995万円。 |
※2 設計業務について役務の提供が完了し、当該役務についての金額が明確に区分された請求書を受領していることが前提
まとめ
建設仮勘定に関する消費税の仕入税額控除のタイミングは、課税仕入れを行った日を原則とするものの、事務処理の煩雑性を考慮して目的物のすべての引渡しを受けた日にまとめて仕入税額控除を行うことも認められています。そして、建設仮勘定に計上した日と仕入税額控除のタイミングは必ずしも一致しないことに留意が必要です。なお、建設工事の内容は千差万別であり、それぞれの工事の契約内容や検収の状況に応じて個別に検討することが重要となります。