保険診療の基本的知識
医療法人会計基準を理解する前提として、我が国の医療保険制度における保険診療の流れを非常に簡単にまとめると次のようになります。
- 国民はそれぞれ加入する健康保険制度において保険料(掛金)を支払う
- 患者が病院等で診療を受け、保険料(自己負担分)を病院等に支払う
- 病院等は審査支払機関に診療報酬の請求を行う
- 審査支払機関はレセプトのチェック(審査)を行う
- 審査支払機関は審査済みの請求書を医療保険者に送付する
- 医療保険者は審査支払機関に請求金額を支払う
- 審査支払機関が病院等へ診療報酬を支払う
上記の流れの中で、病院等が収益を計上するタイミングは、理論上は病院等で診療行為を行った時点が原則です。ただ、実務上は、窓口で患者に請求した時点や入院患者であれば退院時、診療報酬分についてはレセプトが確定した時点などで行われています。
医療法人会計基準における特徴的な会計処理
医療法人会計基準では、企業会計や病院会計準則と異なる特徴的な会計処理が定められている項目があります。
事業損益
医療法人会計基準において事業損益は下記の3つに区分します。
- 本来業務
- 附帯業務
- 収益業務
それぞれの具体例として、例えば下表のようなものがあります。
本来業務 | 病院、診療所、介護老人保健施設、病院内の売店、病院敷地内の駐車場、患者の無料搬送 等 |
附帯業務 | 看護学校等の経営、当該学生への奨学金の貸付、医師等の再研修、有料老人ホーム 等 |
収益業務(社会医療法人のみ) | 当該収益を本来業務の経営に充てる目的のもの |
本部費
本部費は本来業務事業損益の区分に表示します。
事業外損益
事業損益以外の損益については、事業外損益として一括して表示します。遊休資産を賃貸して得る収入などがこの事業外損益に該当します。また、資金調達に係る損益も事業外損益の区分に計上します。
純資産の部
純資産の部は、以下に区分します。
- 出資金
- 基金
- 積立金
- 評価・換算差額等
消費税
消費税の会計処理については、企業会計と同じく、税込方式・税抜方式のどちらでも認められています。なお、病院会計準則では税抜処理のみが規定されています。
補助金
補助金を受け取った際は、直接減額方式または積立金経理によって圧縮記帳の会計処理を行うことができます。病院会計準則で認められていた、負債に計上して減価償却に対応させて収益に計上する方法とは大きく異なるため、補助金を受け入れている法人では処理の変更が必要です。
簡便的な会計処理(負債200億円未満の場合のみ)
会計基準においては原則的な会計処理が定められていますが、これに加え、前々会計年度の末日の負債総額が200億円未満の医療法人については相対的に重要性が乏しいことを考慮し、次の項目で簡便的な処理が認められています。
1.法人税法上の貸倒引当金繰入額を用いること
未収金や貸付金等を評価する際、回収不能と見込まれる額を見積もって貸倒引当金を計上しますが、当該見積りにあたり法人税法上の貸倒引当金繰入限度額を用いることができます(ただし、当該繰入額が明らかに取立不能見込額を下回る場合は不可)。
2.ファイナンス・リース取引において賃貸借処理を採用すること
リース会計に関して、ファイナンス・リース取引であれば原則として通常の売買取引に係る方法に準じて処理することとされていますが、所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当する取引を簡便的に賃貸借処理で行うことが容認されています。
3.退職給付会計の簡便法によって計算すること
退職給付会計については、簡便法の要件を満たさなくても簡便法によって処理することが容認されています。
関係事業者との取引の開示
企業会計における関連当事者との取引を開示する趣旨と同様に、一定の事項について関係事業者との取引の開示が求めらています。開示が必要となる取引の範囲については、金額および割合による基準が明示されています。
固定資産の減損
減損処理についての考え方は、企業会計と同一ではありません。つまり、病院経営においては民間企業と異なり収益性を追求することが一義的な目的でないことが考慮されています。
減損処理の検討に際しては、資産の時価が著しく下落した場合に、回復の見込みがあると認められるときを除き減損処理を行う、という規程になっています。土地を保有している病院等においては特に留意して時価を把握することが必要です。