個人事業主が消費税の納税義務を判定する際、法人の場合と異なり注意が必要な点があります。
個人事業主の消費税の納税義務の判定
消費税の納税義務は、基準期間と特定期間の課税売上高等を用いて判定します。納税義務の判定に用いる金額は1,000万円です。1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じ、1,000万円以下であれば納税義務がないことになります。
具体的な判定の手順は次のとおりです。
まず基準期間で判定
納税義務の判定を行う期間のうち、基準期間とは、個人事業主の場合は2年前を指します。したがって、2年前の課税売上高が1,000万円を超えていれば課税事業者となります。
一方、2年前の課税売上高が1,000万円以下であれば、基準期間の判定においては消費税を納める義務が免除されますが、次のステップとして特定期間による判定を行う必要が生じます。
次に特定期間で判定
特定期間とは、前年の1月1日から6月30日までの6ヵ月間を指します。
上述の基準期間の課税売上高が1,000万円以下であったとしても、この特定期間の課税売上高が1,000万円を超えている場合、課税事業者と判定されます。
なお、課税売上高を用いる代わりに「給与等の支払額」を用いて判定することも認められており、一般的にはこちらを使用したほうが金額が小さくなることが多く、免税事業者となる可能性が高くなります。個人事業を営んでいるものの、人をあまり雇っていない業種の場合には、売上高がどんなに多額でも、この特定期間の給与等の支払額を用いることで免税事業者になれることがよくあります。
免税事業者期間の課税売上高は税抜き処理しない
課税売上高は基本的に税抜きの金額を用いますが、それは基準期間が課税事業者である場合です。
基準期間が免税事業者であった場合、課税売上高を税抜きに戻す等の処理は行いません。免税事業者であった年に、仮に得意先から消費税相当分の売上代金を受け取っていたとしても、それは税法上は消費税を含んでいないものとして取り扱われるためです。
基準期間が1年未満である場合
個人事業主の基準期間は2年前となりますが、2年前に開業したケースなどでは、基準期間に事業を行っていた期間が1年未満となることがあります。つまり、2年前の1月1日に開業した場合は丸々1年間事業を行っていたことになりますが、年の途中に開業した場合は、1年を通して事業を行っていないことになります。
このような場合、以下の疑問が生じます。
基準期間の課税売上高を、1年相当に換算した金額により判定する必要があるのではないか?
例えば、2年前の3月1日に開業した場合、1月と2月はまだ事業を行っておらず、基準期間に事業を行っていた月数は10ヵ月間(3月から12月まで)であるため、その年の課税売上高を「10分の12」に換算する必要があるのではないか?ということです。
これに対する答えは、次のとおりです。
1年相当に換算する必要はありません。
個人事業主の場合、仮に2年前の年度の途中で開業した場合であっても、それを1年相当に換算し直す必要はありません。
まとめ
個人事業主の場合の消費税の納税義務判定については、下記のようにまとめることができます。
開業した年(1年目)は基準期間も特定期間もありません。したがって、常に免税事業者となります。
開業2年目はまだ基準期間はありませんが、特定期間がある可能性があります。つまり、前年の1月から6月までの間に開業した場合には、前年の開業日から前年の6月30日までが特定期間になります。この特定期間の課税売上高(給与等の支払額でも可)が1,000万円以下であれば、免税事業者となります。
開業3年目以降は基準期間も特定期間も存在しますので、原則通り、まず基準期間で判定し、この判定で1,000万円以下となった場合は次に特定期間で判定を行うことになります。前述のとおり、年の途中で開業したとしても、判定に用いる課税売上高等を1年相当に換算し直す必要はありません。