【収益認識基準】代替的な取扱いのまとめ

収益認識会計基準の代替的な取扱い 会計基準の解説

収益認識基準においては、これまでの会計実務との配慮の観点や重要性の観点を踏まえ、代替的な取扱いが定められています。

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代替的な取扱いが定められている項目

契約の結合

まず、いわゆるステップ1における検討事項である契約の結合に関して、代替的な取扱いが定められています。

複数の契約がある場合、基準の要件を満たす場合は当該複数の契約を結合することが原則となりますが、下記の2要件を両方とも満たす場合は契約を結合せず個々の契約ごとに定められた金額で収益を認識することができます。

  • 顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められる場合
  • 顧客との個々の契約における財、サービスの金額が合理的に定められていることにより、当該金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められる場合

反対に、複数の契約を結合すべき要件を満たさなかった場合でも、結合した場合の収益認識の時期と金額と、別々の履行義務として識別した場合の収益認識の時期と金額との差異に重要性がない場合には、契約を結合して単一の履行義務として識別することも容認されています。なお、これは工事契約と受注制作のソフトウェア限定の取扱いです。

契約の変更

続いて、同じステップ1における契約の変更に関しても代替的な取扱いが認められています。

顧客との当初の契約が変更された場合、基準に規定された複数の要件に照らして検討しなければなりませんが、既存の契約との差異に重要性が乏しい場合には、下記のいずれの処理も認められます。

  • 既存の契約を解約し、新しい契約を締結したものと仮定して処理する方法
  • 既存の契約の一部であると仮定して処理する方法

履行義務の識別

履行義務の識別(ステップ2)においては、顧客との契約に含まれる約束した財、サービスが別々のものかどうかを判断します。例えば、製品を顧客に販売する取引において、据え付け作業まで含んだ契約である場合に、当該製品の販売と据え付け作業を別々のものと識別するか、まとめて識別するか、といった論点があります。

履行義務は会計処理の単位となることから、この識別は非常に重要な検討事項です。履行義務に関しては約束した財、サービスが別々の履行義務かどうか評価するのが原則となっていますが、重要性が乏しい場合の代替的な取扱いとして、当該約束が履行義務かどうかについて評価しないことができます。

出荷、配送活動に関する処理の選択

顧客が商品または製品に対する支配を獲得した後に出荷・配送活動を行う際に、商品・製品を移転するという約束を履行するための活動として一体的に処理し、各々を別の履行義務として識別しないことができます。

残余アプローチ

取引価格の配分(ステップ4)を行う際、独立販売価格の見積り方法として「残余アプローチ」を用いることができます。残余アプローチとは、契約における取引価格の総額から契約において約束した他の財、サービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積る方法です。ここで、残余アプローチは下記の要件のいずれかを満たす場合にしか採用することができないのが原則です。

  • 同一の財、サービスを異なる顧客に同時またはほぼ同時に幅広い価格帯で販売している場合
  • 当該財、サービスの価格を企業がいまだ設定しておらず、当該財、サービスを独立して販売したことがない場合

収益認識基準において残余アプローチを採用できるのはやや限定的ですが、重要性が乏しい場合、残余アプローチを適用するための上記2要件を満たさなくても採用することが容認されています。

期間がごく短い工事契約、受注制作のソフトウェア

最後のステップ5においては、履行義務を一時点で充足するのか一定期間にわたって充足するのか検討します。典型的な例として、建設会社等においては、工事の受注から完成・引き渡しまでの期間が長くなることがあります。従来の会計基準においても工事進行基準の会計処理が定められていましたが、収益認識基準においても似たような会計処理が必要となります。

この処理について、代替的な取扱いとして、期間がごく短い場合、通常、金額的重要性が乏しいと想定されることから、完全に履行義務を充足したタイミング(建設会社の例であれば、目的物が完成し顧客に引き渡したタイミング等)で収益を認識することが認められています。

船舶による運送サービス

船舶によって顧客の貨物を運搬するような船舶運送サービスを営む企業のケースにおいては、ひとつの船に複数の顧客の貨物を積み込むことがあります。

顧客ごとに履行義務を認識するのが原則ですが、発港地から帰港地までの期間が通常の期間の場合、一航海を単一の履行義務とすることができます。

出荷基準

これまでの日本の会計実務では、いわゆる出荷基準という処理が広く行われてきました。つまり、商品・製品を自社から顧客に向けて出荷したタイミングで収益を認識する方法です。

収益認識基準においては、一定の期間にわたって収益を認識するケースに該当しない場合、原則として財、サービスに対する支配が顧客に移転した時点で収益を認識する、とされています。具体的には、物品を販売するケースでは、支配が顧客に移転した時点とは、通常、出荷時点ではなく、顧客がその物品の納品を受け検収をしたとき、と考えられます。

これに対し、国内販売であることが条件となりますが、出荷時から支配の移転(例えば顧客の検収時点)までの期間が通常の期間の場合、出荷時点で収益を認識しても容認するという代替的な取扱いが定められています。通常の期間とは何日なのかについて会計基準上は明示されていませんが、数日程度が想定されています。

なお、出荷基準を採用した場合には、重要な会計方針として「収益を認識する通常の時点」を注記する必要があります。

進捗度

収益認識基準においては、一定期間にわたって充足される履行義務についての定めがあります。つまり、これまでの工事進行基準のように進捗度に応じて収益を認識していく方法です。この方法では合理的な方法で進捗度を見積もることが前提となりますが、仮に進捗度の見積りが難しい場合でも、費用の回収が見込まれる場合は原価回収基準という新しい方法で収益を認識する必要があります。原価回収基準は、旧来(収益認識基準の導入前)の日本基準には存在しない会計処理でした。

この処理について、一定の期間にわたって充足される履行義務であっても、重要性の観点から契約の初期段階では収益を認識しないことが容認されています。つまり、契約の初期段階であれば原価回収基準で会計処理をする必要がない、という代替的な取扱いが認められているということです。

有償支給取引

製造業においては広く有償支給取引が行われています。有償支給取引とは、例えば、原材料を外注先の企業に支給し、外注先に加工を行ってもらい、加工後の物品を買い戻すような取引を指します。

収益認識基準においては、支給する企業側が買い戻す義務を負っているかどうかが会計処理の判断の重要なポイントとなります。買い戻す義務を負っている場合、支給品を外注先等に譲渡したとしても収益を認識せず、支給品の消滅も認識できません。一方、買い戻す義務を負っていない場合、支給した企業側では支給品の消滅を認識できますが、収益は認識しません。

上記の原則に対し、個別財務諸表においては、支給品の買い戻し義務がある場合でも支給品の消滅を認識できる、という代替的な取扱いが認められています。これを認めないと、支給した企業側では在庫が自社に存在しないにもかかわらず帳簿上の管理を行わなければならなくなり、実務上の支障が生じてしまいます。旧来からの日本の実務慣行に配慮した、例外的な定めと考えられます。

代替的な取扱いが定められていない項目

ここまで代替的な取扱いが定められている項目をまとめましたが、以下の会計処理は、旧来の日本の会計基準と収益認識基準とで処理が異なるものの、代替的な取扱いが規定されていない項目となります。

  • ポイント引当金の会計処理
  • 返品調整引当金の会計処理
  • 割賦販売における割賦基準に基づく収益の会計処理

これらの処理が必要となる企業においては、会計実務が大きく変更されることになり、留意が必要です。

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