資産除去債務に係る履行差額の会計処理と計上区分

会計基準の解説
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資産除去債務に係る履行差額の会計処理

資産除去債務は、将来固定資産を除却する際に発生すると見込まれる費用を見積もって計上するものです。様々な仮定を置いて見積り計算を行うものであることから、資産除去債務を実際に履行する際、その時点で計上している資産除去債務の残高と、履行のために支払う金額との間に差額が生じることがあります。

当該履行差額は、損益計算書において、原則として当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上することとされています。

資産除去債務の計上から履行までの仕訳例

資産除去債務の計上から履行までの一連の仕訳を示すと、以下のようになります。

【例】

・会社の決算期は3月
・減価償却方法は定額法、残存価額はゼロと仮定
・X1年4月に固定資産を取得し、使用を開始
・取得価額(10,000,000円)
・資産除去債務の見積り額(500,000円)
・割引率(2%)
・固定資産の耐用年数(5年)
・X6年3月に固定資産を除却
・除却時に支払った実際の費用(550,000円)

【仕訳例】
X1年4月
(借)固定資産 10,452,865 (貸)現金及び預金 10,000,000
(貸)資産除去債務 452,865

X2年3月

(借)減価償却費 2,090,573 (貸)減価償却累計額 2,090,573
(借)利息費用 9,057 (貸)資産除去債務 9,057

X3年3月

(借)減価償却費 2,090,573 (貸)減価償却累計額 2,090,573
(借)利息費用 9,238 (貸)資産除去債務 9,238

X4年3月

(借)減価償却費 2,090,573 (貸)減価償却累計額 2,090,573
(借)利息費用 9,423 (貸)資産除去債務 9,423

X5年3月

(借)減価償却費 2,090,573 (貸)減価償却累計額 2,090,573
(借)利息費用 9,612 (貸)資産除去債務 9,612

X6年3月

(借)減価償却費 2,090,573 (貸)減価償却累計額 2,090,573
(借)利息費用 9,805 (貸)資産除去債務 9,805
(借)減価償却累計額 10,452,865 (貸)固定資産 10,452,865
(借)資産除去債務 500,000 (貸)現金及び預金 550,000
(借)除去費用 50,000

【仕訳の解説】

  • X1年4月に固定資産を取得したときには、将来要すると見込まれている資産除去債務を貸方に計上します。その際、割引率を用いて現在価値に換算します。上記の例では、将来の除去費用見積額である500,000円を、2%の割引率で5年分割り引いて現在の価値を計算しています。
  • 毎年3月末の決算時には、固定資産に係る減価償却費を計上するとともに、資産除去債務の増加分(時の経過による調整額)を計上する仕訳が必要となります。借方は利息費用、貸方は資産除去債務です。
  • X6年3月末には、まず、前年度までと同じように減価償却費と利息費用の計上を行います。その後、固定資産の除却に関する仕訳を行います。上記の例では、固定資産の残存価額をゼロと仮定しているため、除却に伴う除却損益は発生しません。そのうえで、資産除去債務を借方に計上してこれまで計上してきた資産除去債務の残高を精算し、貸方に実際の除去費用の額を計上します。その結果、貸借差額が生じますので、この差額が資産除去債務の履行差額となります。

上記の例では、当初見積もっていた資産除去債務の額は500,000円でしたが、実際に除却した際にかかった費用は550,000円であった、という状況です。つまり、50,000円だけ見積りが少なかったことを意味します。したがって、この足りなかった50,000円の費用を除却年度に費用として計上する仕訳を行っています。

履行差額の損益計算書上の計上区分

資産除去債務に係る履行差額は、損益計算書において、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上することとされています。

「資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額」とは、資産除去債務分として固定資産の本体価格に上乗せした部分に係る減価償却費のことです。

つまり、資産除去債務を計上した資産の減価償却費を売上原価(製造費用)の区分で処理している場合は履行差額も売上原価(製造費用)の区分に計上し、販売費及び一般管理費の区分であれば同じ販売費及び一般管理費に計上します。また、やや限定的と考えられますが、減価償却費を営業外費用の区分に計上している場合には、その資産から生じた履行差額は営業外損益の区分に計上することになります。

なお、履行差額が異常な原因(当初の除却予定時期よりも著しく早期に除却することとなった場合等)で発生することもあります。そのような場合には、営業損益や経常損益の区分において計上することは適当ではありませんので、特別損益の区分に計上します。

履行差額が貸方に計上される場合

履行差額が貸方に計上される場合、すなわち、当初の見積り額よりも実際の支出額が少なかった場合には、履行差額として利益が生じることになります。

この場合、当該履行差額が異常な原因で発生した場合には特別利益に計上することで何ら違和感はありません。一方、異常な原因で発生したわけではない場合、売上原価(製造費用)や販売費及び一般管理費の区分に計上することになりますが、これらは基本的に費用の計上区分であることから、履行に伴い発生した利益を「費用のマイナス」で計上することになります。

やや違和感のある表示となりますが、通常、売上原価(製造費用)や販売費及び一般管理費の区分に計上することになる履行差額のマイナス額は、それほど多額にならないと想定されます。すなわち、当該履行差額のマイナス表示額が損益計算書上の費用の表示を歪めるほどに多額であるならば、その発生原因が異常であることが示唆されること、または、除去費用の見積り自体が過去から誤っていたことを示唆するためです。仮に過去の誤りに起因していることが判明した場合には、過年度遡及会計基準にしたがって別途対応を検討する必要が生じます(当該誤りが重要である場合には、修正再表示の余地もあると考えられます)。

まとめ

資産除去債務に係る履行差額は、損益計算書上、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上するのが原則ですが、差額の発生原因が異常なものである場合には特別損益に計上します。

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