有価証券の評価方法をわかりやすくまとめ【経理初心者向け】

簿記の知識

企業は決算の際の経理処理として自社が保有する有価証券を評価する必要がありますが、その評価方法は有価証券の分類(4分類)に依拠するため、まずは4分類のうちどの区分の有価証券に該当するかを確認します。そのうえで、各分類ごとの評価方法と評価差額の処理についてまとめます。

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有価証券の4分類

有価証券は、以下の4分類に区分することができます。

  • 売買目的有価証券
  • 満期保有目的の債券
  • 子会社及び関連会社株式
  • その他有価証券

それぞれの定義を簡単にまとめると、以下の表になります。

有価証券の種類 定義
売買目的有価証券 時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券
満期保有目的の債券 企業が満期まで保有することを目的としていると認められる社債その他の債券
子会社及び関連会社株式 子会社として支配する目的や、関連会社として影響力を行使する目的で保有する株式
その他有価証券 売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券

有価証券の評価方法まとめ

上記の4分類に基づき、それぞれの区分について有価証券の評価方法をまとめると次の表のようになります。

有価証券の種類 評価方法
売買目的有価証券 時価 →評価差額は損益に計上
満期保有目的の債券 取得原価 or 償却原価
子会社及び関連会社株式 取得原価
その他有価証券 時価 →評価差額は純資産の部に計上(ただし、部分純資産直入法の場合は、時価の下落部分は損益に計上)

売買目的有価証券は「時価」

売買目的有価証券の評価方法は、時価です。時価の変動によって利益を得る目的で保有する有価証券であるため、時価の変動額(=評価差額)が財務活動の成果と考えられるためです。

時価とは

時価とは「公正な評価額」をいいます。具体的には、市場において形成されている取引価格、気配または指標その他相場(市場価格)に基づく価額です。なお、市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とします。

市場価格に基づく価額とは、最も分かりやすいのが上場株式に係る取引所の株価です。その他にも店頭取引やこれに準ずるようなシステムで随時形成される価額等を指します。
合理的に算定された価額とは、取引所で価額が形成される類似の有価証券から調整した価額や、将来キャッシュフローから割り引いて算定した価額のほか、ブラック・ショールズ・モデル等の手法を用いて算定した価額等があります。

満期保有目的の債券は「取得原価」または「償却原価」

満期保有目的の債券の評価方法は、取得原価か償却原価のどちらかです。時価評価しない点がポイントとなります。これは、満期まで保有する意思がある債券については、あくまでも満期になって元本が返ってくること、および約定利息の受取を目的として保有しているため、その保有期間において金利が変動することによる価格変動リスクを認識する必要がないためです。

償却原価とは

有価証券を取得する際、額面金額と同額ではなく、額面金額より高い価額または低い価額で取得するケースがあります。それぞれアモチゼーション、アキュムレーションと言います。

額面価額を上回る価格で購入した場合 アモチゼーション
額面価額を下回る価格で購入した場合 アキュムレーション

つまり、アモチゼーションのときは償還時に損失が生じ、アキュムレーションのときは反対に償還時に利益が出ます。このような場合、償還時に一気に損失や利益を計上するのではなく、取得価額と額面金額の差額が金利の調整の性質を有していると認められるときは償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とする処理を行っていきます。この価額を償却原価と言います。

償却原価を計算する方法には、利息法と定額法の2種類がありますが、原則は利息法で、例外的に継続適用を条件として定額法の採用も認められています。

子会社及び関連会社株式は「取得原価」

子会社及び関連会社株式の評価方法は、取得原価です。これらの株式は、時価の変動によって利益を得ることを目的とするものではなく、事業投資の意味で出資するものであることから、保有期間中の時価の変動を認識する意義がないためです。

その他有価証券は「時価」

その他有価証券の評価方法は、時価です。その他有価証券という名称の通り、上記3分類のいずれにも属さない有価証券であり、長期的には売却によって利益を得ることが想定されているためです。

売買目的有価証券とその他有価証券の評価差額の処理の違い

売買目的有価証券とその他有価証券はどちらも「時価」で評価する点は共通していますが、時価評価によって生じた簿価との差額(評価差額)の会計処理は両者で異なります。

売買目的有価証券に係る評価差額 損益計算書に計上
その他有価証券に係る評価差額 貸借対照表に計上(部分純資産直入法の場合、差損は損益計算書に計上)

売買目的有価証券は頻繁に売買等の運用を行い利益を得ることが目的の有価証券ですので、評価差額もその運用成果の一部と考え、そのまま損益計算書に計上します。そのため、決算日時点で売却していなくても評価が下がっている有価証券を保有していると、当該年度の利益を悪化させることになります。

一方、その他有価証券は直ちに売買することが困難であったり換金を行うことに制約がある場合も考えられることから、評価差額を当該年度の損益とするのではなく、貸借対照表(純資産の部)に計上しておきます。そのため、決算日時点で評価の下がっている有価証券を保有していたとしても、当該年度の損益計算書上の利益を悪化させることはありません(全部純資産直入法の場合)。

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ここまでが有価証券の分類ごとに求められる決算時の評価方法と評価差額の処理方法のまとめですが、これに加え、減損処理についても検討する必要があります。

有価証券の減損

有価証券は減損処理の対象となります。前述した有価証券の4分類のうち、減損処理の対象になるのは、売買目的有価証券以外の有価証券です。

市場価額または合理的に算定された価額がある場合の減損

時価のある株式について、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当該年度の損失として処理しなければなりません。

時価が著しく下落したかどうかの判定については、下落率が50%程度以上の場合は著しく下落したと判定します。下落率が30%以上50%未満の場合は各企業ごとに基準を設けて判定します。下落率が30%未満である場合には、一般的に減損処理は不要です。

時価を把握することが極めて困難と認められる株式の減損

時価のない株式についても、その株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額を当該年度の損失として処理しなければなりません。ただし、子会社株式等に関し、実質価額の回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理を行わないことも認められます。

株式の実質価額が著しく低下したかどうかの判定については、少なくとも株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には著しく低下したと判定します。
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