退職給付信託に関する仕訳と会計基準の解説

会計基準の解説
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退職給付信託とは

退職給付信託とは、退職一時金制度および退職年金制度において退職給付債務の積立不足額を積み立てることを目的とする他益信託です。

信託に設定する資産としては、金銭や有価証券があります。

いずれも換金性が高いことが求められますので、一般的にすぐに換金することができない土地等の固定資産は退職給付信託への拠出資産としては適当ではないことになります。

年金資産の要件

退職給付信託が退職給付会計基準における年金資産として認められるためには、以下のすべての要件を充足する必要があります。

  • 当該信託が退職給付に充てられるものであることが退職金規程等により確認できること
  • 当該信託は信託財産を退職給付に充てることに限定した他益信託であること
  • 当該信託は事業主から法的に分離されており、信託財産の事業主への返還及び事業主による受益者に対する詐害的な行為が禁止されていること
  • 信託財産の管理・運用・処分については、受託者が信託契約に基づいて行うこと
信託契約をどのような内容で締結するかは基本的に自由ですが、退職給付会計基準上の年金資産として扱うためには上記4要件をすべて満たす必要がありますので、契約締結時には留意が必要です。

他益信託とは

信託には通常、委託者、受託者、受益者の三者が存在しますが、委託者自らが受益者になることも一般的な信託契約においては問題ありません。

委託者と受益者が同一となる信託を「自益信託」と言います。

一方、委託者と受益者が異なる信託を「他益信託」と言います。

退職給付信託が年金資産として認められるためには、後者の他益信託である必要があります。

したがって、信託資産から生じた配当等の収益を委託者に帰属させるような契約は自益信託となり、退職給付会計基準上は年金資産として認められないことになります。

退職給付信託設定時の留意点

冒頭で記載したように、退職給付信託は、退職一時金制度および退職年金制度における退職給付債務の積立不足額を積み立てるために用いるものですので、信託へ拠出した時に退職給付信託財産およびその他の年金資産の時価の合計額が対応する退職給付債務を超える場合、当該退職給付信託財産は退職給付会計上の年金資産として認められないことになります。

ただし、見積もり違いや時価評価時点の違いに起因する場合で、かつ金額的重要性がない場合は除かれます。

退職給付信託設定時の仕訳

退職給付信託設定時には、資産を時価で拠出する処理を行います。

仕訳で示すと下記のようになります。

仕訳例 含み益のある有価証券(帳簿価額10,000,000、時価12,000,000)を信託に拠出する場合の例です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
退職給付引当金 12,000,000 有価証券 10,000,000
信託設定益 2,000,000

株式を拠出する場合の議決権

退職給付信託へ拠出する資産が株式である場合、当該株式の名義は受託者(信託銀行等)に移りますが、議決権をどのように行使するかについての指示権は契約内容次第で委託者に残すことが可能です。

この場合であっても、信託として拠出した株式を退職給付会計基準上の年金資産として扱うことは問題ないとされています。

退職給付信託に拠出した資産の入れ替え

退職給付信託に拠出した資産を他の資産と入れ替えることに関しては、以下のように整理されています。

入れ替えの内容、状況 会計基準上の整理
現金との入れ替え 信託した資産を買い戻すことと同じ結果になるため、認められない
時価が同等の他の資産との入れ替え 取引の実現が客観的に判断しにくい損益が計上されるため、認められない
退職給付信託が超過積立の状況となった場合 認められうる
信託した資産が株式であり当該株式が上場廃止等により流動性がなくなり信託目的を達成できない場合 認められうる
買収・合併により年金資産に自己株式が生じるおそれがある場合 認められうる

退職給付信託財産の返還

退職給付信託は、その本来の目的を達成するために、委託者の都合で任意に契約を解約し信託財産の返還を受けることはできません。

ただし、以下の場合には信託財産の返還を行うことができます。

  • 将来の一定期間において年金資産が退職給付債務を超過する状態が継続し、かつ
  • 積立超過部分の信託財産が退職給付に使用されないことが合理的に予測される場合
将来予測を伴うことから、実行に際しては慎重な検討が必要です。

年金資産返還時の仕訳

年金資産返還時の仕訳を示すと下記のようになります。

仕訳例 有価証券(時価20,000)が返還された場合の例です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
有価証券 20,000 退職給付引当金 20,000

 

なお、重要性がある場合、返還時点における年金資産に係る未認識数理計算上の差異のうち、当該返還額に対応する金額を返還時に損益として認識します。

仕訳例 信託財産返還額に対応する数理計算上の差異が5,000と把握された場合の仕訳例を示すと下記のようになります。

借方科目 金額 貸方科目 金額
退職給付費用 5,000 退職給付引当金 5,000
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