所得税法における時価の解説と所得税基本通達59-6の改正

個人の税務と確定申告
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所得税基本通達59-6の改正

2020年8月28日付で国税庁から「所得税基本通達59-6」に関する通達の改正が公表されています。

これは、取引相場のない株式の時価について争われた裁判の最高裁判決を受けて、これまで不明瞭であった取り扱いを明確化するため改正されたものです。

この裁判では、非上場会社の株式を個人から法人に譲渡する際の「時価」をどう捉えるかが争われました。

個人株主

↓ (非上場株式を譲渡)

法人

所得税計算における譲渡所得の考え方

所得税法においては、33条に譲渡所得に関する定めがあり、譲渡所得は、当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除して計算することが定められています。

譲渡所得の計算上、所得税は譲渡当事者の合意により実際に取引された価格に基づいて計算されることが原則となります。

しかし、個人が法人に資産を贈与した場合や時価に比して著しく低い価額で譲渡した場合には、例外として時価で譲渡したものとみなすことが規定されています。この規定が所得税法59条1項です。

さらに、取引価格が時価に比して著しく低い価額とは、所得税法施行令169条において、時価の2分の1未満であることが規定されています。

所得税法 33条 譲渡収入の金額は実際の取引価格に基づいて計算すること
所得税法 59条1項 個人が法人へ資産を贈与、または、著しく低い価額で譲渡した場合には、時価で譲渡したものとみなす
所得税法施行令 169条 「著しく低い価額」とは時価の2分の1未満と定義する

所得税法33条

所得税法33条は以下のとおりです(一部抜粋)。

第三十三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。

 譲渡所得の金額は、次の各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(当該各号のうちいずれかの号に掲げる所得に係る総収入金額が当該所得の基因となつた資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額に相当する金額を他の号に掲げる所得に係る残額から控除した金額。以下この条において「譲渡益」という。)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
 資産の譲渡(前項の規定に該当するものを除く。次号において同じ。)でその資産の取得の日以後五年以内にされたものによる所得(政令で定めるものを除く。)
 資産の譲渡による所得で前号に掲げる所得以外のもの

所得税法59条1項

所得税法59条1項は以下のとおりです。

第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

所得税法59条1項における時価の解説

所得税法59条1項では、贈与や低廉譲渡をした場合の譲渡所得の計算の特例を定めていますが、当該条文における時価とは、所得税基本通達59-6において、原則として財産評価基本通達に基づいて算定することとなっています。

財産評価基本通達に基づいて時価の算定方法を検討する際、株主区分に応じて適用する評価方法が異なることから、当該株主区分をどのように判定するかが重要となります。つまり、株主区分に応じて取引相場のない株式の時価を原則的評価方式で評価するか、特例的評価方式で評価するかが異なる、ということです。

株主区分がいわゆる支配株主の場合は原則的評価方式が適用され、少数株主の場合は特例的評価方式が適用されます。

● 支配株主 → 原則的評価方式
● 少数株主 → 特例的評価方式

特例的評価方式によった場合、原則的評価方式で計算した時価に比べて、著しく低い時価が算定されることがあります。当然、税額にも大幅な差が生じることがあるため、いずれの評価方式を適用するか判断するに当たっては慎重な検討が必要となります。

裁判の争点

裁判では、少数株主に該当するかどうかの判定を、株式の譲渡前の議決権割合で行うのか、譲渡後の議決権割合で行うのかが争われました。税務署および納税者の主張はそれぞれ以下のとおりでした。

● 納税者の主張 → 譲渡「後」の議決権割合で判定すべき
● 税務署の主張 → 譲渡「前」の議決権割合で判定すべき
裁判で両者の主張が争われた結果、最高裁判決では、国の主張が認められました。ただし、最高裁判決には裁判官の補足意見として「分かりやすさという観点から改善されることが望ましい」旨の意見が付され、これを受けて所得税基本通達59-6の改正が行われました。

所得税基本通達59-6

所得税基本通達59-6は以下のとおりです。

59-6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」は、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。

(1) 財産評価基本通達178、188、188-6、189-2、189-3及び189-4中「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、同通達185、189-2、189-3及び189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、同通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか、読み替えた後の同通達185ただし書、189-2、189-3又は189-4において株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

(2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。

(4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

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