退職金は、給与等と異なり、税金が非常に優遇されています。その理由は、退職金が「老後の生活資金の原資」となることから、ここに高い税金をかけてしまうと退職後の生活が成り立たなくなってしまうためです。
そして、退職金に係る優遇措置のひとつが、いわゆる「2分の1課税」と言われる制度です。
ところが、令和3年度の税制改正により、行き過ぎた税金の優遇を改めるための改正が行われました。
退職所得控除の改正のポイント
令和3年度の税制改正における退職所得控除改正のポイントは次のとおりです。
■勤続年数5年以下 かつ 役員等でない者のみ影響を受ける
■退職所得控除後の金額が300万円を超える場合、超えた部分には2分の1課税を適用しない
上記の通り、今回の改正は、勤続5年以下の短期間しか働かずに退職して退職金を受け取った場合にのみ影響があります。そのため、5年を超えて勤務した場合に受け取る退職金については、何ら改正は行われていません。
なぜ退職所得控除の改正が行われたのか?
前述した通り、退職金は老後の生活を支えるための資金となることから、税金が優遇されています。したがって、制度の趣旨に立ち返ってみると、「老後の生活を支えるため」という趣旨を明らかに逸脱した退職金の支給については、税金を優遇する必要はないということになります。
制度の趣旨を逸脱した退職金の支給とは、例えば、社外から優秀な人物をヘッドハンティングしてきて短期間だけ雇用する、といった場合に、わざと毎月の給与額面は低くしておき、代わりに退職金を多額に支給する契約を結ぶことで、雇用期間全体を通してみると所得税が低く抑えられる、というスキームが考えられます。法律上は問題ないかもしれませんが、本来の退職所得控除の趣旨からすると、公平性を欠いていると言わざるを得ません。
退職所得控除の改正はいつから?
退職所得控除の改正については、2022年(令和4年)分以降の所得税から適用されます。
2021年に退職して2022年に退職金を受け取った場合は?
2021年(令和3年)中に退職したものの、退職金の受け取り日が2022年(令和4年)に入ってから、というケースではどうなるのでしょうか。
結論としては、このケースでは今回の改正の影響は受けません。
改正に伴う留意点
改正に伴う留意点として、以下の点が挙げられます。
- 令和3年度税制改正の前から、法人の役員等については勤続5年以下の場合は2分の1課税が適用されていません。
- 法人の役員等の場合には、もともと「300万円を超える部分」という基準もありません。
改正内容をまとめると、役員等でない者が勤続5年以下の短期間で退職して退職金を受け取ったときで、かつ、退職所得控除後の金額が300万円を超える場合にその超えた部分には2分の1課税が適用されなくなった、という点が今回の改正のポイントです。