従業員の給与等を上げた場合に適用できる税額控除制度に関しては、令和4年度税制改正により従来の「人材確保等促進税制」から「賃上げ促進税制」へ変更されています。変更後の制度の適用事業年度は、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度です。なお、この制度は大企業向けと言われていますが、適用できる企業の対象は青色申告を行う全企業です。
人材確保等促進税制から賃上げ促進税制への変更点
人材確保等促進税制から賃上げ促進税制への変更点は以下の通りです。
通常要件の変更点
まず、通常要件についてこれまでは新規雇用者の給与等を前事業年度と比べていましたが、これが継続雇用者の給与等に変更されています。つまり、旧制度では新卒や中途採用者の給与等を対象としていましたがこの考え方は廃止され、新制度では前事業年度から継続して給与等を支払っている者を対象とすることとされました。
旧制度 人材確保等促進税制 | 新制度 賃上げ促進税制 |
新規雇用者給与等支給額が前事業年度より2%以上増えていること | 継続雇用者給与等支給額が前事業年度より3%以上増えていること |
継続雇用者とは、適用事業年度と前事業年度の全月について給与等が支払われており、雇用保険の一般被保険者で、高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象になっていない者を言います。
また、規模の大きな大企業については新たにマルチステークホルダー方針を公表することが必要とされました。
旧制度 人材確保等促進税制 | 新制度 賃上げ促進税制 |
(新規) | 資本金10億円以上かつ常時使用従業員数1,000人以上の企業の場合、マルチステークホルダー方針を公表し通知書の写しを確定申告書に添付すること |
マルチステークホルダー方針とは、給与等の支給額の引き上げの方針、取引先等のさまざまなステークホルダーとの適切な関係の構築の方針、教育訓練の実施方針等を記載したものを言います。このマルチステークホルダー方針をインターネット上で公表したことを経済産業大臣に届け出る必要があります。
上乗せ要件の変更点
上乗せ要件として、継続雇用者給与等支給額が前事業年度より4%以上増えている場合が追加されました。この場合の税額控除額は、控除対象雇用者給与等支給増加額の25%となります(通常15%+上乗せ10%=25%)。
旧制度 人材確保等促進税制 | 新制度 賃上げ促進税制 |
(新規) | 継続雇用者給与等支給額が前事業年度より4%以上増えていること |
教育訓練費が前事業年度から20%以上増加した場合に上乗せ措置がある点については変更ありませんが、明細書の提出(確定申告書への添付)義務がなくなり保存義務になりました。
旧制度 人材確保等促進税制 | 新制度 賃上げ促進税制 |
教育訓練費の算出の根拠となる明細書の提出義務あり | 教育訓練費の算出の根拠となる明細書の提出義務はなく、保存義務のみ |
税額控除率の変更点
税額控除の計算に関しては、控除率を乗じる対象が控除対象新規雇用者給与等支給額から控除対象雇用者給与等支給増加額に変更されたうえ、控除率も引き上げが行われています。
旧制度 人材確保等促進税制 | 新制度 賃上げ促進税制 |
控除対象新規雇用者給与等支給額の15%または20% | 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%、20%、25%または30% |
大企業向け賃上げ促進税制の注意点
中小企業者等も適用できる
冒頭で記載した通り、大企業向け賃上げ促進税制は大企業向けと言われているものの、中小企業が適用してはいけないということはありません。すなわち、中小企業者等の場合、中小企業向け賃上げ促進税制は適用できないが大企業向け賃上げ促進税制は適用できるというケースはあり得ます。ケースとして多くはないかもしれませんが、もし該当した場合には適用を忘れないよう注意が必要です。
具体的には、雇用者全体の給与等の増加額は小さいものの、継続雇用者に対する給与等の増加額が大きい場合です。例えば、給与の高い従業員が継続雇用者から外れた影響で全体の給与等の増加額は少額にとどまったが、それ以外の従業員(継続雇用者)の給与水準を引き上げたことで継続雇用者だけで比較をすれば給与等の増加額が多額になった、といったケースです。
当初申告要件がある
賃上げ促進税制は租税特別措置法で規定されている税額控除制度です。そのため、当初申告要件が付されています。
当初の申告における確定申告書に制度の適用を受けるための金額を計算した明細書を添付することが必要であり、当初申告時に制度の適用を忘れた場合、修正申告や更正の請求において適用を受けることはできません。