自己株式の取得に係るみなし配当と譲渡損益の関係

法人経営の税務
スポンサーリンク

自己株式の取得とみなし配当

企業は、一定の場合、自己の発行した株式を株主から取得すること(自己株式の取得)ができます。

自己株式を取得する場合、税務上は株主に対する「資本の払い戻し」として扱います。そのため、法人税法第24条1項5号の規定に従い、みなし配当の適用があります。

みなし配当とは、直接的な剰余金の配当や分配とは異なるものの、実質的に剰余金の配当と変わらない性質を有する取引について、税務上は配当とみなす、という取り扱いです。

【法人税法 第24条1項5号】

法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この条において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の資本金等の額又は連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなす。

五 自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第六十一条の二第十四項第一号から第三号まで(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)

なお、上場企業等が市場取引によって自己株式を取得する場合は、みなし配当は発生しません。

自己株式の取得に関する税務処理

自己株式を取得した法人の税務処理

自己株式を取得した法人(株式の発行法人)は、資本金等の額の減少を認識します。

資本金等の額の減少とは

資本金等の額の減少は、「①取得直前の資本金等の額を、②直前の発行済株式(自己株式は除く)の総数で除し、ここに③取得する自己株式の数を乗じて計算した金額」で計算します。

資本金等の額の減少 = ①/② × ③

上記の計算式で算定された資本金等の額の減少額と、株主に交付した金銭等の額を比較します。そして、交付した金銭等の額が資本金等の額の減少額を上回る場合、その超過額について利益積立金額の減算として処理されます。すなわち、この処理額がみなし配当です。

自己株式を取得した法人の仕訳例(税務)

自己株式を取得した法人の税務上の仕訳を示すと、例えば以下のようになります。

(借方)資本金等の額  ××  (貸方)現金及び預金  ××
(借方)利益積立金額  ××  (貸方)源泉預り金   ××

自己株式を取得した法人の別表調整

自己株式の取得を行うと、会計上は純資産の部からの控除項目として一括して計上することから、会計と税務に処理の差異が生じます。したがって、法人税申告書において別表調整が必要となります。

減少させる利益積立金額(みなし配当の額)は、別表4において社外流出となります。また、別表5-1の自己株式の区分の増加額にマイナス金額で記載します。

株式を発行法人に譲渡する株主の税務処理

株式を発行法人に譲渡する株主側では、譲渡した株式に係る譲渡対価と帳簿価額の差額を譲渡損益として認識します。なお、譲渡対価の額は、払い戻しを受けた金銭等の合計額からみなし配当の額を差し引いた額です。

みなし配当の額は受取配当金として認識しますが、当該みなし配当の額を株主自身で算定することはできません。株式の発行法人から通知されますので、その通知にしたがって認識することになります。みなし配当の額は源泉徴収の対象となっています。

株式譲渡損益とみなし配当の額の関係

株式譲渡損益とみなし配当の額は、以下のように整理することができます。

<数値例>

  • 交付された金銭等の合計額 12,000
  • 株式の帳簿価額 10,000
  • 資本金等の額に対応する金額 7,000
  • みなし配当の額 5,000

上記の数値例においては、帳簿価額10,000の株式を発行法人に譲渡したことで12,000の金銭を受け取っていることから譲渡益(2,000)が発生するように見えますが、下記の仕訳のとおり、みなし配当の額を考慮する必要があるため、株式の譲渡については損失を計上するのが正しい処理です。

(借方)現金及び預金  10,979  (貸方)株式    10,000
(借方)譲渡損失    3,000  (貸方)受取配当金  5,000
(借方)仮払源泉所得税 1,021

タイトルとURLをコピーしました